納得!「遺言執行者」に指名されるということ part.3
さて、いよいよこのシリーズも一旦完結しようと思います。初めての経験でしたので、これからさらにいろんな勉強を積み重ねていくことになりますが、まずは今回の経験を通して、お伝えしたいことをまとめたつもりです。
最初に公正証書遺言を作成する際に、「遺言執行者」を決めておくことにより、どのようなメリットがあるのか解説していきます。
まず、「遺言執行者」が遺言書の中で指名されていれば、下記の内容の判例が挙げられます。
・相続人は、遺言執行者として指名された者が就職を承諾する前であっても、相続財産の処分はできない
・相続人が処分行為等の制限に反して行った行為は絶対的に無効となり、遺言執行者は何人に対しても無効を主張できる
・相続人の制限違反の処分行為でも、遺言執行者の同意か追認があれば、当該行為は最初から有効となる
逆に、「遺言執行者」が定められていない場合には、相続人が行った処分行為等は有効となります。また、「遺言執行者」が辞任・解任又はその他の事由によって任務を終了した場合にも、相続人の管理処分権が復活するので、相続人の処分行為が有効となります。つまり、「遺言執行者」を定めることにより遺言人の意思を実現することができ、仮に一部の相続人が遺言人の意思に反して処分行為を行ったとしても、それを無効にすることができるという訳です。
次に、「遺言執行者」についてどのような内容を入れるべきか、という点について気づいたことを挙げてみます。
・復任権
「遺言執行者」は、やむを得ない事由がない限り、第三者にその任務を行わせることができないと、民法で定められています。しかし予期せぬけがや病気などで、実際に就職できない場合もあるでしょう。そういったケースを想定して、公正証書遺言の中で「遺言執行者」の復代理人の選任権を入れておくことが大事です。
また、「遺言執行者」は、対象物件の管理、遺贈の履行、寄付行為に基づく財団の設立などでは、必要な士業を履行補助者として選任することができます。実際には、市役所等の謄本を取り寄せたり調査したりする際には行政書士、土地の登記に関する手続きは司法書士、税務に関することは税理士、訴訟提起が必要な場合は弁護士と、様々なケースに応じて、士業の協力が必要になってくることがあります。これらの任務の交通整理をする役割としても、遺言執行者には法律家を選任しておくとスムーズに運べると思います。
・費用や報酬
遺言執行後に発生する費用を把握できている場合は、遺言書の中に入れておく方が良いと思います。 また可能ならば、「遺言執行者」の費用や報酬についても遺言書の中できちんと明記されることが理想です。 というのも、遺言者との間で合意が出来ていたとしても、相続人との合意ではないため、遺産執行が始まった後に問題となるケースが想定されるからです。
・祭祀について
公正証書遺言を作成する場合に、祭祀に関する指定を入れると11,000円余計に費用がかかってしまいます。これは、祭祀に関する財産は相続の対象とならず、かつ分散されるべきでないという目的で、別の法理で処理されるからです。 ですから、もし遺言者に生存する配偶者や長男などがいて、遺言書の中で指定せずとも決まり切っている場合は、この項目は削除しても良いかも知れませんね。
・付言事項
私の経験では、この部分が最も重要なのではないかと思いました。遺言者の意思がきちんと伝わることが、相続争いを未然に防ぐ抑止力ともなりうるのですから、丁寧に作成されることをお薦めします。遺言者の心からの思いを文書にすることにより、遺言者からも相続人からも感謝されました。また付言の内容は、A4で1枚以内であれば、公証人も問題なく引き受けてくれます。
また場合によっては「遺言執行者」と相続人や受遺者、その他利害関係人との間で、解釈が違ったり、合意が形成しにくい場合もあります。特に遺留分を侵害する遺言だった場合、相続人から遺留分減殺請求をされるケースも想定されます。こういう相続争いのもとになりそうな内容に関して、相続の専門家である法律家であれば、遺言書を作成する段階でアドバイスできます。それでもそのような内容の遺言を遺したいという場合には、利害関係人との調整役として第三者である法律家の協力があれば、大きな争いに発展しないようにすることも可能だと思います。そういうケースこそ、公正証書遺言を作成し「遺言執行者」をきちんと定めておくことが、一番の予防となることでしょう。
転ばぬ先の杖、もし相続に不安を抱えているようであれば、お気軽にお問合せください。
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