納得!「遺言執行者」に指名されるということ part.2
前回に続き、「遺言執行者」についてコメントしていきます。私が遺言の相談を受ける場合は、公正証書遺言をお薦めしており、必要と思われる場合には「遺言執行者」を定めることを提案しています。相続争いは必ずしも金額の多寡によるものではないため、相続人間で出来る限り争いを未然に防ぐことを目的としてお薦めします。
ちなみに、公証人に出張依頼をして公正証書遺言を作成した際は、公証人と公証役場の事務員、立会証人2名、遺言者の合計5名で確認作業、読み合わせ、捺印作業を行いました。私の経験では、付言事項を丁寧に作成したためか、合計20分ほどかかりました。そして、例え依頼人や遺言執行者が遺言者の配偶者や子であろうが、相続人に当たる方は、この遺言作成の場には一切立ち会うことはできませんので、注意が必要です。
また立会証人には、相続人やその配偶者など利害関係のある方はなれません。必ずしも士業である必要はなく、極端なことを言えば通りすがりの方にお願いすることも可能なのですが、やはり財産に関することですので、ある程度信頼のおける人物を選ぶことが賢明でしょう。
ではまず、「遺言執行者」の権利と義務について見ていきましょう。民法で定められている権利としては、委任の規定が準用されています。
・「遺言執行者」の権利
①費用償還請求権
遺言執行のために必要な費用を支出し、又は債務を負担した場合は、相続人に対してその費用の償還ないし弁償を求めることができる。
②報酬請求権
遺言中に報酬の定めがあればそれによるが、定めが無くても、家庭裁判所は相続財産の状況やその他の事情を考慮して報酬を定めることができる。
では次に、義務について挙げてみます。
・「遺言執行者」の義務
①任務の開始義務
遺言執行者は、就職を承諾した時から、直ちにその任務を開始しなくてはならない。
②財産目録の作成、交付義務
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなくてはならない。
③善管注意義務
遺言執行者は、善良な管理者としての注意義務を持って、その任務に当たらなくてはならない。
④報告義務
遺言執行者は、相続人から要求があった場合には、いつでも遺言執行の状況等について報告しなくてはならない。
⑤受取物等の引渡し義務
遺言執行者は、相続人のために受領した金銭、果実、権利等を相続人に引渡しないし移転しなくてはならない。
⑥補償義務
遺言執行者は、遺言執行として相続人のために受領した金銭を自己で消費した場合、相続人に対して、消費した日以降の利息を支払わなければならない。
特に上記の③から⑤までの義務を怠った場合には、遺言執行者は相続人に対して、債務不履行責任という法的責任を負うことになるので注意が必要です。いかがですか? こんなに様々な義務を負うのかと驚かれたのではありませんか? しかし実際には、誠実に任務をこなしていれば、それ程義務に縛られることはないと思います。
そしてこの中で特に煩雑で注意が必要なのが、②の財産目録の作成と交付についてです。おそらく、公正証書遺言を作成していれば、その時点で財産については必要な調査を行い、財産目録を作成しているはずです。しかし、その日時と実際の遺言執行日が離れていた場合、例えば銀行に対する預貯金の場合、後日引き出されていたり、利息や手数料などによって変動していることがあります。 また、複数の口座に預貯金がある場合には、遺言執行者の遺言用の口座に一旦すべて振り込んで整理する、といった遺言執行者であれば可能となるテクニックも、相続人に対して財産をお預かりする上で重要になってきます。
いづれにしろ、「遺言執行者」に指名され就職する際には、重い義務を負うことを覚悟する必要があるのです。さて、次回はいよいよ、相続争いを未然に防ぐため、公正証書遺言の中にどのような内容を入れるべきか、具体的にコメントします。
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