AIビジネスの本当の脅威とは?~イノベーションの成功の秘訣Part 11
皆さんは、25日(日)のNHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017」をご覧になりましたか? 公共放送であるNHKが、過去の番組の焼き直しレベルというか、これほど薄っぺらな内容を堂々と放送していることに、今更ながら驚いてしまいました。 紹介されている事例は、機械学習の事例で、認知システムや少し賢い情報検索システムに過ぎませんが、徐々に社会に浸透しているということを伝えるには分かり易いのかも知れませんね。しかし、この番組タイトルといい、開発者にもブラックボックスがあるという煽りを入れる辺りは、編集者の意図的なバイアスを感じます。ただ、”人工知能を仮想敵とみなさず、そこから学ぶ姿勢を持とう”というメッセージだけは良かったように思いました。
ボナンザは確かにコンピューター将棋のプログラムとしてはトップレベルでしょうし、日本人が開発したフリーウェアということでは、世界に誇れるものかも知れません。しかしすでに、チェスの世界では90年代にIBMの”Deep Blue”というエキスパートシステムが世界チャンピオンに勝利し、囲碁の世界では、昨年DeepMindの”Alpha Go”というディープラーニング(ニューラルネット)が囲碁の世界チャンピオンに勝利しました。この世界最強の囲碁AIは、4億ドルでGoogleに買収されたことが記憶に新しいですが、先日なんと引退宣言をして、今後は難病や新素材開発に活用できる汎用アルゴリズムの開発に注力していくそうです。そしてこの”Alpha Go”が今のAIブームの引き金になったといっても過言ではないでしょう。
さて、私はもともとプログラマーではないので、人工知能のアルゴリズムを技術者として理解している訳ではありません。しかし、10年前から”ニューラルネットワーク”(再回帰型)をベースにしたAI開発のプロデュサーとして携わってきたので、AIやIoTに関するビジネスの知識や経験があるつもりです。そしてその経験から、現在のビジネス勢力図に大変な危機感を覚えています。
少し順を追ってお話します。ちょっと古い話になるかも知れませんが、”TRON(トロン)”という日本人が開発したリアルタイムOSをご存知でしょうか?今やPCのOS(基本ソフト)と言えば、Widows一強になってしまいましたが、以前はLinux,MacOSに加え、”トロン”が存在していました。このトロンは唯一の日本製で、基本ソフトの世界で覇権争いに出たのですが、あっさり米国の圧力に負けて消えてしまいました。”トロン”の目指すアーキテクチャーや拡張性、何よりリアルタイム性は当時本当に優れていたにも関わらずです。そして今のPC,タブレットにおけるWindowsの立場や利権を見ると、何が何でもこの覇権争いを制したかった意図は明らかですね。
そして携帯がインターネット接続の主流になっていた時代、日本はガラパゴスと呼ばれる状況となり、ドコモやauらがアプリ開発のプラットフォームとなりサービスプロバイダを仕切る、という閉鎖的な時代が続きました。公式サイト、非公式サイトという、妙な言葉が流行ったのは、日本特有かもしれませんね。
しかし、一転して海外に目を向けてみれば、Googleが”アンドロイドOS”をオープン化することで、世界中から40万人もの開発者を集め、一気にスマホ時代の覇者に躍り出てきたのです。iphoneはもちろん独自OSとなりますが、それ以外はほぼGoogleが制し、ナンバーワンの地位を確固たるものとしています。この時点で、スマホOS(基本ソフト)の覇者争いに食い込める日本の技術は、もう存在していません。
さて、そしていよいよAI時代に突入してきました。これまでのPCやスマホと違い、AI時代のプラットフォームの覇者は、加速度的に世界を制していくでしょう。その理由は、多くの開発者や企業が使えば使うほど、大量のデータが集まり、それがすなわちAIシステムの精度がアップすることにつながり、更に他社を圧倒するからです。そうして覇者となる企業は、ありとあらゆるデバイスを意識せずに使えるモビリティ性を持つことにより、生活のあらゆるシーンを制していくことは明らかです。さて、ここに日本企業の出番はあるのでしょうか?
残念ながら、AIプラットフォームを巡る覇権争いは、米国企業が大きくリードしています。今は”GAFA”と呼ばれるIT企業が頂点に立っており、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社のことを指します。これらの企業は、技術と大量のデータを併せ持ち、日本にはまだ存在しない強豪と言えます。一方技術面では、IBMというガリバーが存在感を増しています。さらにこれらの企業は続々と巨額の投資とM&Aを仕掛けては、ニュースを騒がせていますよね。私が伝えたい”AIビジネスの本当の脅威”とは、この米国巨大企業群や中国の水面下の動きを指しています。 次回は米国の状況について、もう少し詳しくコメントします。
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