ベンチャーサイドから見た投資環境のリアル
今月は、東京で大きなイベントが複数あったため、出張を通じて様々な技術トレンドや投資環境について情報を得ることができました。技術のトレンドについては、それぞれ関連する支援企業へフィードバックする目的でしたが、あまりにも多岐にわたるため簡潔にまとめられません。そこで今日は投資環境について福岡とは違う視点のお話を拝聴する機会を得たので、その点を報告します。
日本を代表する政府系ファンドの代表、技術系VCの代表、特定分野に特化したビジネスモデルのVCなど多岐にわたる投資家のセミナーを拝聴したり、直接ベンチャー企業の代表とともに投資家と商談をしてきました。
まずは写真のILS(イノベーションリーダーズサミット)というイベントに私は初めて参加しました。国内外の有望ベンチャー企業500社と大手企業100社、VC投資家100社との日本最大級のマッチングイベントです。私は初見のベンチャー企業や技術が多かったのですが、ほとんど東京発のベンチャー企業だったように思います。それに対し、某著名な投資家によると、ほとんど知っている企業ばかりだとおっしゃっていました。と言うことは、やはり投資家の目線は少なくとも国内においては、東京一極集中なのかなという印象です。
続いて、印象に残ったコメントを基にフォローしていきます。
■「AIはすでにコモディティ化していて、AI技術を他社との差別化に置く企業はナンセンス」
これは薄々感じてたことなんです。仕事柄ベンチャープレゼンを数多く聞く機会があるので、”AIを導入”はすっかりバズワードになっていると思ってました。中には採用したAI技術が他社との差別化だと訴える企業がいますが、肝心なのはどういうサービスや製品を提供するために採用したか、その活用方法や付加価値が差別化できていないと、本来の強みとはならないことを念頭に置くべきです。ユーザーの視点で考えると、どれほど最新の技術を導入していようと、ユーザビリティの低い製品やサービスは使いたくないですよね。
■「シード期の企業で3億~4億集める事例がかなり出てきた」
シード期とは、ベンチャー企業の企画段階やプロトタイプの段階で資金を調達するフェーズを指すのですが、これまではシリコンバレー方式のシード期向けのアクセラレータープログラムやファイナンス実績を見ていると、1億以下というのがここ数年のトレンドでした。そしてシード期の後に、商品やサービスを完成させ市場に出していくフェーズをシリーズAと言いますが、3億から4億集めるのは、このシリーズAのタイミングがこれまでの事例では多かったと思います。しかし、シード期で3億から4億集めるということは、プロトタイプが出来るか否かの状態で、ポストバリュエーションは10億超える換算が想定されます。かなり技術レベルが高いか、ターゲット市場が巨大か、あるいはこれまでに類を見ないビジネスモデルか、いづれにしろ何か突出しているベンチャー企業なのでしょう。このことは、ファンド規模が拡大していることと関連するのでしょうが、一方で地方のシード期やシリーズAのベンチャーは、相変わらずリードが見つからずに苦労していると思います。このギャップを埋められる方法が見つかると良いのですが。
■「本当にオンリーワンと思える技術やサービスならば、ステルスで資金調達すべき」
ステルスというのは文字通り、水面下でここだという投資家のみにNDAで巻いて交渉していき、実際のラウンドで調達が完了しても外部にはプレスリリースなどを一切出さない方式のことを言います。この方式のメリットは、外部へ技術やサービスが漏れないので、大手企業など他社から模倣されたりするリスクを回避でき、うまくいけば市場における先行者メリットが得られるからでしょう。しかし、これはベンチャー企業サイドがかなり資金調達のノウハウや人脈に長けていないと、難しいのではと思いました。もちろんこの方式で実行できれば、ベンチャー企業のみならず、投資家から見てもメリットの高い方式かも知れません。時々彗星のように市場に出てくるシリーズBあたりのベンチャーを見受けるようになってきましたが、まさにこのステルスなのでしょうね。
■「私がもし1億集めようと思うと難しいが、10億集めようと思えばできないことはない」
これは実は、福岡で東京の著名な投資家に聞いたコメントです。今回のイベントで、資金調達に成功した経営者のお話を複数聞きましたが、IPOする少し前に、40億、最大では80億を超える資金調達に成功したというお話を聞きました。このことはある程度IPOが確実と思われる企業に、投資家の資金が集中しているということでしょう。本来リスクを取るためのベンチャ―キャピタルであるべきでしょうが、特に地方のベンチャー企業が資金調達をしようとしても、私の肌感覚で言うとリードを取る投資家に会えることがすごく難しいと感じています。一方で大きな市場に対し、大きな発展が期待できる事業を企画すればいいかと言うと、それもまたどこまで支援することができるか、ファンドサイズとのバランスで大変な難しさを感じることがあります。 ですので、地方のシード、シリーズAのベンチャー企業は、表に出てくる数字とは違って、実際の調達はかなり苦労することを覚悟した方が良いと思います。
今回のイベントでは、大手企業とベンチャー企業の協業がテーマになっていることが多いと思いました。オープンイノベーションにしろ、M&Aにしろ、それぞれのギャップをどう埋めていくかというテーマでの議論です。大手企業からすれば、借り物競争であり、新たなイノベーションの源泉を得たいという焦りや思いがあるのでしょう。 しかし私がベンチャーサイドから見てリアルに現場で感じているのは、ベンチャー企業が大手企業の論理や時間軸に翻弄され、一番の持ち味であるスピード感をそがれてしまい、チャンスを逸している事例です。この解決策は一筋縄ではいかないでしょうが、某地方のエコシステムのテーマで聞いた「大企業幕末の到来」という言葉が一番今の時代を象徴しているように思われました。 また機会があれば、今回のいろんな刺激を受けたお話についてシェアします。
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