自社の企業価値を具体的に把握できますか?
実は正確には私の専門分野ではないのですが、経営者だった時代も、現在の様に経営者支援をしていても、企業価値の把握は、出資やM&A、事業承継など様々なシーンで必要となってきます。そこで、専門的に把握するというよりも、経営者として抑えるべきポイントについて、今日はコメントしてみます。
株式投資に興味のある方なら、”時価総額”という言葉を聞いたことがあるでしょう。上場企業においては、市場での株価に発行済み株式数を乗じたものがすなわち”時価総額”となります。この”時価総額”を基準として評価されるその会社の価値が「企業価値」となります。そして、”株価”すなわち”時価総額”を上げることは、上場企業にとって最も重要な経営戦略の一つと位置付けて間違いありません。
さて一方で、未上場企業の「企業価値」はどうやって算出するのでしょう。相続、第三者割当増資、事業譲渡や会社分割、買収などのM&Aの際には、必ずこの「企業価値」(バリュエーションと略することもあります)が必要となります。そしてこの「企業価値」を算出するために、会計上のアプローチとして株価を算出します。この株価評価には様々な方法が存在し、私の知る限りでも10パターン近くあります。なぜかと言うと、それぞれの手法によって株価は大きく変動するので、特定の目的に応じて採用する側が意図的に特定の手法を活用しているように思われます。例えば企業のM&Aにおいて、買収する側は少しでも安く買いたいと願い、買収される側は少しでも高く売りたいと願うとなると自ずと利害は一致しません。 それぞれその利用目的に応じて、出来る限り有利な交渉ができるように、或いは個別に説得できる材料として、最適な評価方法を選択する必要があるからでしょう。
この評価方法を細かく説明しても、実際に活用してみないとなかなか実感として伝わらないと思います。色んな分類方法があると思いますが、一般的なアプローチとして活用されることが多い方法について、メリットなどを交えながら経験からコメントします。
まずは、大きく分けると、下記の3つの方法があります。
①コストアプローチ/会社保有の資産から導き出す
②インカムアプローチ/将来的な収益とキャッシュフローから導き出す
③マーケットアプローチ/市場における相場から導き出す
①のコストアプローチは、帳簿から導き出すことが出来る方法です。簿価純資産法や時価純資産法と呼ばれる方法が代表的です。メリットは、帳簿(決算書など)が信頼できるのであれば、事業計画を作成する必要が無く、最も簡便な方法でしょう。相続などでは使われることがあるのかも知れませんが、デメリットとして含み損や含み益、のれんなどが加味されないため、M&Aや投資などには向かないでしょう。
②のインカムアプローチの代表的なものは、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法と呼ばれるものが最も代表的でしょう。5ヵ年程度の事業計画を策定し、その利益から導き出されるキャッシュフローから算出する方法です。 ベンチャー企業への投資の際に、将来大きく伸びる企業価値を示す方法としては向いていますが、事業計画やリスクを見積もる割引率の設定などによって結果が大きく異なることがあるため、近年ではその正確性が課題となることがあるようです。
また一度だけ、インカムアプローチのうち、配当還元法を経験しました。これは、将来の各期の期待配当額の現在価値の総和を計算するもので、期待配当額が将来にわたって一定の割合で増加し続けるという想定のもとで簡易な計算で価値を算出するゴールドン・モデル法でしたが、アメリカでは近年活用されているようです。
③のマーケットアプローチの代表的なものは、マルチプル法と呼ばれる方法で、国内の投資の際によく利用されるようです。類似会社比較法とも言い、評価対象企業の類似会社にあたる上場会社の市場株価と、利益やEBITDA、純資産といった財務指標から算出された倍率によって企業価値を算定する手法です。一番指標として使いやすいのは、やはりPER(株価収益率)で、1株あたりの利益から株価の割安性を判断する指標です。メリットとしては、DCF法ほど難解な計算式は不要なので、会計のプロでなくても算出可能なことですが、デメリットとしては、 どの企業を“類似”とするかによって結果が大きく変わるため、慎重に選択する必要があります。5社ほどピックアップして、一番高い値と一番低い値をカットした平均値で導く方法が一般的のようです。
以上、かいつまんで株価の評価の方法について、コメントしました。 しかし実際は、会計データに反映されておらず、数値化できない企業の資産がある場合もあるでしょう。 例えば、大きな市場が見込める可能性のある研究開発中のプロダクトだったり、出願中あるいは取得済みの特許を保有していたり、会社を支える有能な人材など。 企業や経営者が把握しているこういった無形有形の資産こそ、本来企業の一番の魅力であり、評価されるべきポイントだと私は思います。
福岡では、相続や事業承継以外では、あまり企業価値が話題になることはありませんが、第三者割当増資やM&Aでは必須となります。将来可能性を感じている経営者であれば、概要だけでも理解して、いざとなったら専門家のサポート体制を構築できるようにしておくと安心ですね。
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